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「合縁-the beginning of death.-」



アルフレッドが正面から突入している間に、倉庫のRDXを起爆させる。
RDXとは、爆薬の代表ともいえるニトログリセリンの約1.4倍の破壊力を持つ高性能爆薬である。
少量で大きな効果が望めるため、今回は倉庫の破壊に使用した。

それを仕掛けた細身の男は、ガスマスクとケプラー製タクティカル・ベストを着用しており 、手には短機関銃型ステアーAUG―アサルトライフル―が握られている。
西口の見張りが東の方へ向かうのを確認し、その男、アーサー・カークランドは 鍵の掛かっていない扉から廃工場内部へ侵入した。
アーサーの予測通り、人員が倉庫の消火に割かれているために、工場内はほとんど人影はなかった。
楽々と製造ラインの横を通り抜け、工場の最奥「синте тический контроль комната(総合制御室)」と看板の下 がっている部屋を視認し、扉の横の壁に背をつける。
はやる心を一旦落ち着けて、アーサーはもう一度扉をよく見る。
だが、外側から異常は見受けられなかったため、室内へ突入する。

そこには、誰もいなかった。

PCを乗せた机が整然と並んでいるだけである。
と、その時、左後方から微かな風切り音を聴いた。
アーサーは咄嗟にステアーAUGで防御する。
ぶつかり合うそれと、ボウイナイフ―刃長20cmの鞘付きナイフ―が、キン、と音を立てながら火花を散らす。
後ろからも何者かの足音が聴こえ、アーサーは素早く身を返し、左手のステアーAUG で鋭い突きを防ぐ。
同時に、片手でダガーを抜いて、右、左と繰り返される一人の斬りつけに応戦する。
もう一人の頸動脈を狙った横なぎをアーサーはステアーAUGで受ける。
想像以上に重い一撃。
その所為で、アーサーはステアーAUGを取り落とした。

「っ……」

相手もガスマスクをしているため、身体つきからしか判断できないが、アーサー と同じか、それよりも若く見えた。
一人が踏み込んでボウイナイフを振るう。アーサーはそれをダガーで受け流す。
懐に入り込み、軽く膝蹴りを溝尾に叩き込んだ。が、一人は受身を取って、衝撃 を軽減する。
もう一人の突きを、今後は身を捩らせて避ける。
僅かに脇腹をかすめ、タクティカル・ベストに傷を付けた。
二人は横に並び、瞬時にボウイナイフを構え直す。
一人は左手、もう一人は右手にそれを握っていた。
もう一人が先に斬りかかる。少しタイミングをずらして、一人の方も続く。
大振りで隙の多い一人を、もう一人がカバーする、というように、二人の攻撃は息が合っていた。
元々、接近戦が得意ではないアーサーは反撃のタイミングを掴 めないままに、じりじりと後退していく。
一人の右からの斬撃を避けた隙に、もう一人が、アーサーの手から、ダガーを弾 き飛ばした。
重い衝撃にアーサーの手が痺れる。
一人が大きくボウイナイフを振り上げる。
その切っ先は、アーサーの喉元を捉えていた。
アーサーが、殺られる、と感じた瞬間。

「Feliks,опасность!(フェリクス、危ない!)」

アーサーの後方から放たれた銃弾は、フェリクスを庇ったもう一人の左肩を掠める。
アーサーはすぐに後退し、廊下の曲がり角に転がり込んだ。
フェリクスは転がっていたステアーAUGを掴み、即座に撃ち返す。

「アーサー、君は何をやってるんだい?」

短機関銃の連射に、拳銃の単発撃ちでは勝ち目はないと、アルフレッドも壁に身を隠している。
アーサーもショルダーホルスターから、PSSサイレンサーピストルを抜いた。

「うるせえ。2対1は分が悪すぎんだろ」

フェリクスともう一人は、弾幕を張りつつ、総合制御室へ逃げる。
アルフレッドとアーサーは追うが、部屋の入口付近にも弾幕を張られた。
突入できずにいる間に、二人は窓ガラスを割って出て行く。
その直後、車の発進音が鳴り響き、二人の逃亡を伝えた。

「…君、最悪」

アーサーは、抜いた意味のなかった拳銃をしまった。
そして、アルフレッドの恨めしげな視線を無視して、近くにあったPCの前に座る。
既に起動していたPCにUSBメモリを差し込んで、ハッキングを開始する。







スピードを上げて走る車の中には、重苦しい空気が漂っていた。
フェリクスは先ほどから、無言でトーリスの銃創の手当てをしている。

「…Ох!!(…ああ!!)」

その車の運転手が突如叫んだ。
スタイルの良い彼女は、ただただ狼狽する。

「ど、どうしましょう」

彼女の視線は、膝の上のノートPCに向けられていた。
そんな彼女に、トーリスは模範的な提案をする。

「とりあえず、停まりませんか?」
「そ、そうね」
車は路肩で停まり、彼女はその外見から想像できないほど速く、PCのキーを叩き出す。

「どーいう状況?」
フェリクスが不機嫌そうに口を開く。
「ハリコフのPCがハッキングされてる」
「…っ奴らか」

憎々しげに呟くフェリクス。
それとは対称的に、トーリスは苦笑しながら尋ねる。

「防げそう、ですか?」
「うーん……ハリコフを棄てたら、イヴァンちゃんは怒るかな?」
彼女は、ぽつりと疑問を投げかける。
「それは…」
「別に怒んないと思うけど」
フェリクスが口を挟む。
「つーかむしろ、あいつならデータ盗られる方に怒るし」
「…そっか」

彼女は納得し、躊躇なくPCを操作して、ハリコフの強制初期化、シャットダウン を行った。
そして、時限爆弾を起動させる。
これを仕上げということにして、彼女は運転を再開した。







廃工場が突然爆発した。

少なくともギルベルトの目には、そう映った。
倉庫だけでなく、廃工場の最奥部、総合制御室からも火の手が上がり、黒煙を吐き出している。

「これは…ちょっとまずいんじゃねーか?」

誰に向けた訳でもない疑問も、煙と同じく風に流されて消える。
ギルベルトは軽々とした身のこなしで、鉄骨から下りた。
そのまま外壁に沿って総合制御室に向かう。
だが、角を曲がったところで、ギルベルトは立ちつくす。
溜め息を吐いて、ギルベルトは無線機のマイクに声を吹き込んだ。

「…作戦終了。全員無事だぜ。迎えに来てくれ」
『了解だよー』

イヤホンからは、馬鹿みたいにのんびりとしたフェリシアーノの声が聴こえた。







すすまみれ、擦り傷だらけの二名と、特に怪我のない二名、計四名を乗せたワゴ ンが、港に到着した。
作戦を終えて疲れているにも関わらず、後部座席に座った二人は言い争いを続けている。

「君の馬鹿さ加減には本当に呆れるよ」
「だから、反省してるって言ってんだろ」
「絶対思ってないね」
「いつまで続ける気だよ…」

某アニメ映画で壁の隙間にいる黒い球体にそっくりな二人の騒音の所為で、ほとんど眠れなかったギルベルトが呟く。

「でも、眠気覚ましにはちょうど良かったよ」
「お前はな」

大きくあくびをして、フェリシアーノに答えるギルベルト。
もはや夜は完全にあけ、朝の日差しが海をきらきらと輝かせている。
車から出てきた四人を待っていたのは、黒海に面したオデッサ港に碇泊中のI-cube本部、212型Uボート
―潜水艦《ちせ》である。

「きくー!ただいまー」

港に立っていた白の軍服に身を包んだ小柄な人影を見つけるやいなや、アルフレ ッドはそれに抱きついた。

「おかえりなさい、アル」

菊は照れくさそうに微笑んで、他の三人を見る。

「皆さん、おかえりなさい」
「ただいまー」
「おう」
「はい」

それぞれに返事をして、乗艦していく。
菊と目の合ったアーサーが、何故か緊張した面もちで敬礼する。 と、菊は笑って答礼した。







PCのデスクトップから目を離し、菊は軽く背筋を伸ばす。
コンコン、と艦長室の扉が叩かれた。
「…本田」
データ解析の進度を確かめるためか、バッシュが艦長室を訪れた。

「…これは、私でも無理かもしれません」
「そうか」

アーサーが持ち帰ったUSBメモリのデータは、本人が言った通り、初期化の所為でほとんどが壊れていた。
なんとか復元できないかと試みてはいるが、時間だけを食い潰す結果に終わっている。

「…どうした?」

物思いにふけっていたのを悟り、バッシュは問いかけた。

「何でもないですよ」

また、あの人に借りを作らなければならないのか。

そんな思いが胸をもたげた。

一応、本編の一話ですー長いですね\(^^)/
趣味に走りすぎてすいません
機関銃を使うアルが好きですw←
次はもっと銃撃戦をやりたいですね←
フェリクスの口調がわからない乙!
ロシア語は相変わらずのエキサイト×Google翻訳なんで、突っ込まないであげてください