真っ白な空が見えて、ここは天国なのかという馬鹿馬鹿しい妄想が膨らんだ。
ピントが次第に合っていくにつれて、そんな妄想も消えていった。
「あ…」
腹筋に力をいれると、僅かな痛みのために、掠れた声が漏れる。
すると、視界の真ん中に、くせ毛の黒髪が映った。
「ロヴィ、大丈夫か?俺のことわかるか?」
起き上がろうとすると、その黒髪の男がそれを手伝ってくれ、ロヴィーノは難なく枕元のフレームにもたれた。
大きな枕がクッション代わりになって、座り心地は悪くない。
そいつがあまりにも必死な表情をしていたから、ロヴィーノは、ついこう聞いてしまった。
「…誰?」
「俺や!アントーニョやで!」
アントーニョは、再び必死になってロヴィーノに語りかける。
「……?」
だが、ロヴィーノが全く思い出せない、というように眉根を寄せると、アントーニョは明らかに落胆の色を浮かべた。
「わからんのか…?」
世界が終わりを迎えたような、ロヴィーノが自身を刺した時のような、そんな顔をしたアントーニョが可笑しくて、ロヴィーノは吹き出した。
「…ぷっ」
「え?」
間の抜けた声をあげるアントーニョに優越感を感じ、ロヴィーノは腹痛にも関わらず、笑いながら言った。
「…嘘だよ」
「驚かせんといてや…」
笑顔を浮かべるロヴィーノとは対称的に、アントーニョは安堵の溜息を吐いた。
「必死すぎだろ。頭打った訳でもねえのに」
そんなアントーニョをからかうロヴィーノ。
「せやけど…」
「なんでそんな必死になるんだよ」
少し不満そうに言うアントーニョに、ロヴィーノはまた冗談めかして尋ねた。
「だって、ロヴィにはまだ言えてないことあんねんもん」
「え?」
アントーニョが拗ねたように言うと、ロヴィーノは小首を傾げた。
「…俺も、ロヴィのこと大好きやで」
少しも恥ずかしがることなく、アントーニョが笑ってそう言ったため、むしろロヴィーノの方が赤面してしまって、俯いてしまった。
「っ…バカ」
ぼそっと呟いたので、アントーニョまで聞こえているかはわからないが、あいつがどんな顔をしてるかなんて、見なくても大体想像がついた。
扉の向こうからは、なにやら耳に馴染んだ人々の声が聞こえてくる。
どうやら、二人でいる時間はそう長くないようだった。