Site Title


「恨別-another story-」



一台のワゴンが、ある豪邸の前で止まる。
そこから出てきた青年―王耀は、使用人たちの制止を振り切って、王家当主の執務室に入った。

「父上、これはどういうことですか」

開口一番に述べた王耀に、当主は机の上の書類から目を離し、冷たい視線を送る。

「何のことだ?」
「とぼけないでください。…菊のことです」
「…お前がなぜそれを気に病むのか、全くもってわからないよ」
執務室の黒い椅子から立ち上がり、溜め息混じりに答えた。

「菊は我の弟だから、です」
王耀は断言する。だが、当主の喉を鳴らす低い笑い声に僅かにひるんだ。

「…そうか。だが、お前はその"弟"のことを、どれほど知っていたのだろうな」
「…どういう意味ですか?」
「上海の件は、確かにあれとは無関係だ」
「それなら、何故…」
「逸るな」
問い詰めようとした王耀を諫め、当主は続ける。
「上海の件は、だ」
「…え?」
「おかしいとは思わなかったのか?王グループの急成長、国内での支配勢力の拡大、東南アジア進出…」

背筋に寒気が走る。当たらないで欲しい嫌な予感がしてしまった。

「…お前は表しか見ていなかったのだろう?このグループの、華やかな一面しか」
「……なら、菊は…」
「概ね、想像通りだ。とても役に立ってくれたよ。…だが、有能すぎた」

反応のない王耀を後目に、当主は独り言のように言う。

「海岸一帯を手中に収めたまでは良かった。けれど、その所為である組織に目をつけられてね」
嫌な予感は的中し、これ以上の情報を、王耀の身体が拒絶していた。
「…もう、結構です」
「そうそう、あれがどうやって王グループに繁栄をもたらしたかというとな」
「結構です」
「武器取引と抗争。二つを対立させ、漁夫の利で手に入れたところもある。あれ は非常に駆け引きが上手かった。自らの手をかけず、人を殺すのも上手かった。 ああ、それはお前も同じか」

「…もう結構です、と言っているでしょう!」

王耀はいつの間にか、大声をあげていた。
心拍数が一気に上がり、冷や汗が首筋に流れている。

「…耀。お前は何を見てきた?あれの何を知っていた?お前が気付かない間に、あれは返り血に塗れていた」
痛い言葉が降りかかる。返す言葉が無く、悔しさを覚えた。
「…お前の代わりにな」

守られていたのは、どっちなんだ。

弟の硝煙の残り香を見て見ぬふりをしてきたツケが、回ってきた気分だった。
「っ……」
「だが、そんな身代わりもいなくなった。…どういうことか判るな?」
「…はい」
「私も、もう長くはないだろう」

そう呟く当主は、先程と違って、ひどく老いて見えた。







「…兄様」
執務室から出た時、話しかけられた王耀は、暗い表情の妹に語りかけた。

「…お前が気にすることじゃない」
「…でも、小兄様は帰っていらっしゃらな…」
「わかっている。お前もいずれ知る時が来るだろう」

自分の発言が、妹から逃げる口実にすぎないと悟り、吐き気を催した。
「…今はまだその時ではない、と仰るのですか?」
「ああ」
「……そうですか」
妹が納得していないことが、その表情から伝わってくる。

…無理もない。妹が一番慕っていた人間が、消されたのだから。

「…悪いが、今日は気分が優れないんだ」
「わかりました。…申し訳ごさいません、兄様」

その場で一礼して、妹は去っていった。小さくなっていく背中を見るのが辛く、 すぐに目をそらした。


そんな自分がまた、嫌になった。

はい、オマケクオリティですねww長くならなくて良かったです。
一応、できなかった補足説明をば普段の共通語は英語です。
皆さん、英語だと癖←訛り?がでます。なので、口調が違います。
口癖が出ていない時は、その人が母国語を話してると思ってください。
一応、一つの段落に2言語が出る場合は片方を区別しています。
そして、妹は湾ちゃんでつ。また日との絡み話を書きたいな\(^^)/