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「恨別-could you respond?-」



「…et…get up!(…おい、起きろ)」

身体を揺さぶられる所為で、意識が次第に覚醒する。
視界の中心に、ぼんやりと人の顔が映り、身体に感覚が戻ってきた。

「……痛っ…」

首筋にズキズキと痛みが訪れ、嫌でも現実に引き戻される。手を動かそうとして、縛られているのに気付く。

「…ここはどこですか?」
目の前の金髪の男は、驚いた顔をして、運転手の男に話し掛けた。
「…ルート、姫君は英語が通じるようだが」
「それは良かった」
ルートと呼ばれた男は平坦に返す。
「…あなたたちは誰です?」
目の前の男はワンジュを睨みつつ答える。

「…I-cube」
「は?」
「そういう名前の組織だ」
「はあ…。で、そのI-cubeが私に何の用ですか?」
この質問には、運転席の男が答えた。
「上海で起きた一連の暴動。裏で糸を引いていたのは、お前だな?」
「…え?」

上海?確かに暴動がそこで起こったのは聞いた。
危うく紛争になりかけたことも知っているが…

「…?お前ではないのか?」
私の様子を不審に思ったのか、目の前の男が尋ねる。
「……いえ、私ですよ」

ああ、そうか。このために、私を香港へ寄越したのか。

心の中で全て合点がいった。上海を取り仕切っていたのは、当主である"父上"だ。
…それが導く答など出すまでもない。

「?…そうか」
腑に落ちないという顔をしたが、目の前の男は続ける。
「では姫君。お前には、二つの選択肢がある」
「何です?」
「一つは、先程述べた罪状で、国際裁判にかけられる。もう一つは、我々と共に来る」
「…どちらも嫌だ、と言ったら?」

それならば、


呟いて、目の前の男は懐からオートピストルを取り出し、安全装置を解除する。
そして、躊躇なく私の眉間に押しつけた。

「ここで死ぬだけだ」
「…なるほど」
「…まぁ、確実に有罪され逃げる余地のない選択肢より」
「"多少は逃げる機会のある選択肢を取るべきだ"…でしょう?」

自分の中で、結論は既に出ていた。

「…わかりました。あなたたちと共に行きます」
「物分かりが良くて助かる」
目の前の男が、銃を下ろし、安全装置をかけた時、"ルート"が話を切り出した。
「…ちょっといいか?」
「なんだ?」
「ずっと付いて来るワゴンがあるんだが…。知り合いか?」
ちらと後ろを向くと、"迎え"に来るはずだった車がある程度間をあけて付いて来ていた。
「ああ、そうですね」

…今更来ても遅いですよ。

ジーと、耳障りな機械音が車内に響いて、次に耳に馴染んだ声がスピーカーから 聴こえた。
『…停。如果不停、射(…止まれ。止まらなければ、撃つ)』
「…どうする?」
"ルート"の問いに、目の前の男は即答する。
「止まって、返り討ちにして、逃げる」
「数が多過ぎないか?」
「あれぐらいなら殺れるのである」
「ちょ、ちょっと待ってください」
「ん?」

「私が彼らを説得します」

一瞬の静寂の後、"ルート"とアイコンタクトで会話した、目の前の男が言う。
「…一つだけ条件がある」
「何ですか?」
「会話は全て英語で行うこと。破れば殺す」
再び安全装置が外れる音が聴こえた。
「…わかりました」

渡された無線機を口の近くに寄せ、話し掛ける。
それと同時に、オートピストルの銃口がこめかみに当てられた。

「…聞こえますか?応答してください」
『担心了。馬上助…(ああ、心配したよ。すぐに助ける…』
「待ってください」
『什?(何?)』
「会話は全て英語で行うこと。それがこの通話の条件です」
『…わかったある。これで良いか?』
「はい。…拘束された理由は、上海の暴動を引き起こしたから…」
『え?そんなはずは…』
無線機の向こうの人物は、明らかな動揺を滲ませている。
「どういうことか、わかりますよね?」
『……どうして、どうしてお前が…』
紡がれる言葉はまるで一人言のようだ。それを無視し、話を続ける。
「だから、帰れません」
『…何かの間違いある!我が、父上に訊いてみる。そうすれば、きっと…』
「父…いえ、御当主はそういう決断をなさった。変更はないでしょう」
『そんな…』
「…さよなら、です」
『…嫌あるよ。ワンジュ、戻ってくるよろし。父上は、我が説得してみせるから…』
「…無理ですよ。いくらあなたでも、御当主の意向には逆らえない」
『っ……』
「私の代わりは掃いて捨てる程いる。だけど、あなたの代わりはいないのです」
『……』
沈黙を肯定と受け取り、話を続ける。
「本当に、お世話になりました。ありがとうございました。王耀さん」
『…本当に、これが最後あるか?』
「……はい」
『…最後くらい、兄と呼んで欲しかったある』

「…再見、哥哥。(…さよなら、兄上)」

機械を通して、あの人が喚くのを聴いたが、電源を落として見ないふりをした。
「契約違反ですね」
「初めから、こうするつもりだったのか?」
勘の良いこの人は、私の言葉の真意を問いただしてくる。
「何のことです?」
「おい、」
「わかっている」
"ルート"が口を挟もうとするのをこの人は許さない。
「殺さないんですか?」
「そんな誘いに乗るほど馬鹿ではないのである。それに、自殺志願者を殺すほどお人好しでもない」
こめかみに当てられた銃口が離れていく。

…別に死にたがっている訳ではないのだけれど。

「そうですか。残念です」
沈黙が訪れ、付いて来ていたワゴンがどんどん車の流れの中に消えて行く。
始まりがあっけないと、終わりもそうなるらしい。

あの一族の中に、私はもう含まれていないのだから。
残されたのは、ワンジュ―王菊ではなく、ただの菊。

ワゴンが見えなくなって、視線を前に戻す。
その時、隣に座る人と目が合ってしまった。
「…あ」
「どうした?」
「えーっと…あ、名前、まだ訊いてないですね」
無理やり話題を作ったことは明らかだったが、この人は答えてくれた。
「バッシュ・ツヴィンクリだ。で、運転している奴が、ルートヴィッヒ」
「わかりました」

…だから、"ルート"だったのか。

「…お前は?」
「え?」
「…お前の名は?」

この人たちは、私のことを知っていたはず…。

頭を巡らせて、一瞬でひとつの結論に至る。
「…きく、です」
「そうか」

しばらくの沈黙の後、バッシュは呟く。
「…あれは、日本のものであるな?」
その指の先には、確かに日本製の車が走っていた。
「ええ、そうですよ」
「…ほんだ、きく」
「え?」
「…"きく"だけでは、不便だろう」

この人たちは、きっと。

「……」
「嫌なら、別に使わなくてもいいのである」

私が"きく"になった理由を、知っている。

「…いえ。…では、今から本田菊、と名乗りますね」
「自分の意見を言え、…」
文句を言ったはいいものの、私をどう呼ぶべきかわからないという様子が見てとれた。
「"本田"か、"菊"と呼んでください。バッシュさん」
その人は、眉間にしわを寄せて呟いた。
「…本田」


"兄上"が迎えに来ることは、もう二度と無い。

…だけど、それも悪くない。…ここの居心地が、悪くないから、かもしれない。


過ぎていく景色と、エンジンの音を聴きながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

英語の部分、私が適当に訳しましたw中国語の部分、エキサイト翻訳フル活用ww
適当です
その辺は突っ込んだら、負けよ\(^^)/